貫いたものは何だったか…。
炎か、雷か、それとも見覚えのある大剣だったか……。何にせよ、一撃によって今まで形作
っていた風の紋章の具現体は翡翠の粒子となり霧散した。後には、広場の中央に倒れ伏した彼
が残された…。
それぞれが肩で息をして、玉のような汗と流れ出る。傷ついた体から滴る血を拭う事無く。
どれほど時間が経過したのか。誰も気にも留めず、目の前の結果を凝視していた。
「やった…」
誰かが知れずに零した。
確かに、自分達の眼前には怨敵が倒れ伏していた。それはこの場に居る人間が共通で確認出
来た。そして、完全には倒しきれていなかったのか、緩慢な動きだったがルックはその体を起
こした。
今まで強大な力を放出していたぶり返しの結果か、遺跡全体を強い地震が襲っていた。
炎の運び手達はトドメを刺す事が出来ず、後ろ髪を引かれるように脱出していった。
世界の根源を司る四大元素の力が強引な形で放出していたのだ。風化に曝された石組みの神
殿など耐えられるものではなかった。地を揺らす震動とは別に崩壊と瓦解の音が響いてゆく。
『僕の…想いも……、崩れてゆく……』
一度は起した体だったが、今は崩れ行く神殿の断末魔を背中で受けながら、空けた空が目に
映っていた。
『ここは…、空が見える……』
過去の大戦のグレッグミンスターもルルノイエも、最終決戦は王宮での戦闘だった。
『ここは、空がある。大地がある。風が、吹いている……』
僕が壊そうと奔走した物が今も在る。壊そうとする前から壊そうとした後も。
「僕は…、………」
「死に体発見〜!」
「うん、無様曝して恥曝すとは正しくこの事だね」
「日頃の悪態が霞むほどの無様よのう」
「…………」
「………あのさ、こいつを助けに来たんじゃないのか?」
お三方開口一番の罵詈雑言に、堪らず荷物持ちが頭を抱えて溢した。直接戦っていたナッシ
ュの方が同情を感じてしまうのは何故だろうか…。
「救済の意味が何を為すのか…、齟齬があるようだったら僕たちの行為は『助け』る事にはな
らないかもね?」
「…………」
英雄の謎掛けなお答えです。
「キミ達、一体何しに来たの……」
横になった状態で立った三人をねめつけている為、あまり威圧感は無い。さらに言えば、仰
るとおりの『死に体』の人間なわけで軽口を叩いている余裕など、ない。
この三人がわざわざこの状況で来る理由など…。いくら暇を持て余しているからと言って、
わざわざ越境して来るほど…
「当然っ!
死にたがっている馬鹿を死なせない為に決まってるじゃないか!」
国主サマはいとも簡単に残酷な言葉を言ってくれる。それも満面の笑みを見せて。
「まぁ嫌がらせ、というのが一番いい表現かな」
キミが一番されたくない行為をしてあげようと考えているわけだし、とのたまう英雄。
「死を望む程度とは、安い絶望よのう。
生と死の意味を知らぬ餓鬼が、わらわの目の届く内でいい度胸じゃ」
凍れる闇の月は、憤怒を隠さずにぶつけてくる。
「生きて、購えと…?」
「生きていく死んでいく意味とそれが他者に対して何を齎すか、それを気付くまで死なせてな
んかあげない」
天威は答えると、右手袋を外し空へ掲げる。
「キミをずっと見て、一歩下がって傍に居た彼女の存在はキミにとって、嘘偽りでなかった筈
だよ」
イーヴァは手袋の下にある紋章に意識を込める。
「……セラ…」
黙して語らず、どんな時でも付き従った金髪の青衣の少女の顔が思い浮かんだ。
「彼女にとっても後悔は無いのかもしれない…。でもこんな終わり方が望みじゃない筈だよ。
願わくば……」
彼の紋章は、忌み名で呼ばれる事が当然となってしまっているが、『生と死を司る紋章』。
死に至らしめることも…、またその逆も望めば叶おう。
「馬鹿は死んでも治らんと言うが、一度死んだ身になるのも良いのかも知れぬな。おんしの様
に頭の固い馬鹿は。
柵が解ければ…、また新たに旅立つ事が望めよう」
最も『真なる紋章』と長きの付き合いのある彼女。左手の甲の月は優しく光を放っている。
この力が溢れた空間に一種の秩序空間を維持していた。身体を叩く震動はいつの間にか遠いも
ののようで、ただ光が降り注いでいく。
「始まりの紋章よ…、『風』に優しき癒しの光を…。人に望みを繋げる救いを……」
『風』と同じ淡い翡翠色の光が降り注ぐ。
優しい過去からの仲間達。
脳裏を過ぎらなかったわけではない、彼らの存在が。
炎の運び手達が締南に呼ばれた事を聴いた時、彼らが動く事は考えていた。でも、こんな形
での行動とは……。
すると…思っていたのかもしれない。
『僕は、そうして貰いたかったのかも知れない……。
過去、仲間と言ってくれた彼らに僕は……。
ずっと…、………』
「僕は…どうしようもない…、バカだね………」
「今更気付いたわけ?」
呆れ顔のイーヴァ。
「生まれながらの紋章持ちというておったが…、そこらにいる人間と何処がどう違う…。
自惚れも大概にするがいいわ!」
怒り憤懣のシエラ。
「ルックは…、ずっと自分の事独りだって思っていたんだろうケド…。
確かに『ルック』自身は独りだよ。それは僕だって、イーヴァさんだって、シエラさんだっ
て…。
でも、だからって『孤独』じゃなかった筈だよ…、ルックにだって…」
「…………」
「ルック様っ!
セラはっ!セラだけはどんな事があってもルック様のお傍を離れませんっ!!
だからっ…生きて下さいっ!!!」
ボロボロの身体を引き摺って…、セラが現れた。水の紋章を賭けて戦ったセラ。
この儀式の間に来る事がどれだけ負担になっているか…。
「セラ……ッ!」
空を白く埋めるほどの閃光の爆発が起こった後、激しい鳴動と震動で儀式の地は崩壊した。
風化に耐えていた建造物は崩れ去り、瓦礫と化し。
全てが崩れ去った。
ルックの狂気と呼ばれた行いも、彼の亡骸も…。
決戦の地が崩壊した事で、全ての終止符は打たれた。
(last up 2008 9/8) ← →
次回で終わりな感じです。
きっと周りから散々虐められる事間違いなし。。
幻水DS、記事見ましたが、やっぱり狙うところ間違っている気がするコ●ミ。
幻水1ラジオは怖くて聴いてません。2だったら迷わず聴いているのですが。