この回廊を進みきった先の広間に倒すべき敵・ルックが待ち受ける。
 それぞれのパーティーが敵を倒しここ集結した。皆、怪我無く…とはいかず、それぞれがあ
る程度負傷した姿であったが、例外なく双眸には揺ぎ無い意志が灯っていた。
「じゃあ、最後の戦いのメンバーは…」
とヒューゴが最後の戦いのメンバーを呼び上げる。



 最終決戦に挑むメンバーはヒューゴ、クリス、ゲド、ササライ、フッチそしてエステラとい
う結果となった。メンバーから外れてしまった…特にゼクセンの誉れ高き六騎士殿達は、結果
を推測できていただろうが、残念な表情を隠そうとはしなかった。
 その反面、ササライの共として行動をしていたナッシュ・クロービスは、肩や腰に手をやり
「いや〜、おぢさんも最後まで頑張りたかったんだけどね〜」
と本当に残念そうに言葉を零した。
「安心するといいよ、ナッシュ。
 確かに君は決戦へ赴くメンバーからは外れたけれど、君にはしっかりとやるべき事があるか
らね」
「…………」
 そう最後までは言わなかったササライだが、彼が言わんとした事をナッシュは、正確なほど
理解していた。外見年齢16歳だが中身はその倍を生きている人外。この手の存在に縁があるナ
ッシュにとって、物事が潔く終わるなどとは思ってはいない。思いたいけど、現実は優しいも
のではなかった。
「パーティーを離れる諸君らには、モンスターの討伐を頼む。
 我々の進攻である程度は駆逐できているのであろうが…」
 ササライに代わり、口を開いたのはクリス。何処から出現してくるか知れないのが、モンス
ター。諦めていない、勝って戻ることを信じているからこそ帰還時の憂いを無くする事は、必
要不可欠の命題だった。
 離脱する事となった炎の運び手、ゼクセン騎士団、第12小隊、そしてナッシュ達、強者でな
ければ託せない事だった。
「おうよ、ヒューゴ。帰りの事なんか心配せずに、奴をぶっ倒しに行きな。
 俺らはちょっと物足りないが、ここらの雑魚、キレイさっぱり後腐れなく片しておいてやる
よ」
「うんっ、任せたよ軍曹っ!」
 ミステプラジュリを担ぎなおして、目元涼やかなジョー軍曹が笑った。
 いつの間にか…、今までは前を歩いて先導していたというのに、ヒューゴは多くの人間達と
出会う経験を経て、気付けば自分は一歩後ろに下がった位置が定位置となっていた。『カラヤ
族長の息子』から『炎の英雄』へ…。物悲しさを感じるのはこの際、気のせいにしておいて、
自分が成すべき事を全うするだけだ。
「クリス様、後の事は我々に任せて、どうか奴を。そしてこの戦いを終結させましょう」
 ボルス筆頭に、六騎士とルイスが鎧を鳴らす。
「任せたぞ、皆」
「……………………」
「大将…、とりあえず締めぐらい何か言ったらどうです…」
と、黒い隻眼の大将は相変わらずだった。
 長い付き合いだが、やっぱり相変わらずのKY…もとい無口。期待した俺が馬鹿だった、と
肩を落とすエースに苦笑を浮かべるクィーン。その他の面々も同様の表情を見せた。
「無理はするな。必ず戻る」
「…………」
とんだ不意打ちを頂いた。




 後はそれぞれの装備を確認して突入するのみ、となった時分に。
 一人、離れて立っていたナッシュにゲドが近寄ってきた。
「おう、ゲド。もう準備は済んだのか?」
「さして何かを用意するものも無いのでな…」
 ゲドの言葉に、確かになぁ…と納得するナッシュだった。
 だが会話はまだ終わらない。わざわざこの無口中年が寄ってきた理由など、一つしかない。
「アンタは気づいてんだよなぁ、やっぱ…」
「付き合いが長いんでな。それに、あちら方は隠れるのが上手い…」
 お互い何を言わんとしているかなど、野暮な事である。
「で、何か言伝でもあるのか。出来るかどうかは別として…」
 二人の会話が指す対象達が何をしようとこの神殿を訪れたのか、ゲドであるなら…いや継
承者で仲間だったという事実を知る人間なら、判りきった事だろう。
「俺は…、討つ側の人間となったが…、奴の想いが判らないわけではない……」
「…………」
「『救い』があるのなら、俺とてそれを望みたい…」
「…ホント…。継承者ってのは喰えねー奴ばっかだよな」
 そう、年齢を感じさせない笑顔を見せると、ナッシュは誰にも気付かれずにその場を離れた。



「じゃあ、皆。行こう、これが最期の戦いだ」






 一度通った道に迷う事は無い。そして、目的の対象を見失う事もまた無かった。だから、迷
い無い足取りで辿り着いた先は、先程ササライがルックと退治した広間だった。
 その広間の中央に三人。忘れる事は無いだろう三人。三人はそれぞれ、己の獲物を手にして
静かにその時が訪れるのを待っていた。

「これは皆さん、御揃いで。お待たせしましたか?」
「へぇ〜、本当に言ったとおり、辿り着きましたね…」
「ホント、シエラさんの場所判っちゃうんだ…」
 ナッシュの登場に紅い服の兄弟のような二人は目を丸くしてそれぞれの感想を洩らす。
「他の人達って、僕達のこと判ってたわけじゃないんでしょ?」
 天威が興味しんしんで尋ねてくる。
「ゲドは気付いていたよ…」
「継承者でも気付かないって言うのに、ナッシュさん判るだなんて、すっごいんですね〜」
「何か俺、犬かなんかに思われてるわけ……?」
 背中を嫌な汗が滂沱の如く流れ落ちる。
「犬ではなく荷物持ちだと言うておろうが」
 もやは名言です。



 感動の対面も済み、それぞれが状況を尋ねる。
「で、どう言った状況じゃ?」
「俺が離れた後に突入したからね、もう火蓋は切って落とされていると思うぜ」
「まぁそうだろうね。お互い手抜かり無く…派手にやっているようだし…」
 天威は右手で額を押さえて、瞑想をしている様にも見え、右手に宿る紋章から状況が伝わっ
ているかのようだった
「僕達がルックの元に行く方法は?」
「少し回り道をする必要があるが、この先の回廊の行き止まりに天井に亀裂が出来た場所があ
る。そこからなら上に出られる。出てしまえば後は一直線だ。多少は足場が悪いが中の様に遠
回りする必要は無い」
「ふふ、短い間でよく調べて来れたものよ」
 納得のいく報告にシエラは、満足そうな笑みを浮かべて見せた。
「こちとら15年の付き合いですからね〜、始祖様のご要望がどの程度か熟知済みですよ…」
 何処からとも無く年代物のワインを取り出してきたとしても、驚く事は無いだろう…、それ
ほどのプロフェッショナル振りだった。
「しかし、『機会』はあるのか。ヒューゴ達は絶対に殺すつもりだぞ」
 お互い刃を以って戦場を生き抜いてきた者同士だ。手加減などは当然あり得ないし、殺し損
ねる等という事はまず皆無。その覚悟をした者の戦闘にどう介入するつもりなのか…。
「『機会』はね作るものだよ、ナッシュさん」
穏やかな表情の天威は続ける。
「…きっと、僕達が割って入る『機会』なんてそれこそ…、真際だけかもしれない。でも全く
無いわけじゃないから。
 僕だけだと流石に無理があるけど、イーヴァさんやシエラさんがいるし、…ナッシュさんも
手伝って貰えたら、それこそ不安なし、ですけどね」
「…………」
「…みすみす死なせるわけには行きませんよ。
 ルックには『死』なんかより死にたいって思うぐらいの『生』を味合わせないと」
 僕達と戦ったくせに…、何見ていたんだか。もう一度しっかり教育してやる。とイーヴァな
どは不穏な笑顔を見せる。
「ナッシュ。そなた、道案内だけで役目が終わるとでも思うておったか?」
「…………謹んで、お供仕ります…」
 最早、項垂れた犬にしか見えなくなっていた…。
「それに、僕達だけじゃないから」
「はい〜?」
「そうそう、時機を読むことは誰よりも長けている人間がね、気付かれない場所から虎視眈々
とその『機会』を狙っているから……」
「あんたらだけじゃないのか?」
「とりあえずは僕達だけ、だよ。他の誰かが実は裏でコッソリ…ってあっても別におかしくは
無いよ」
「……あぁ、そうだな」
 生半可な返事をするだけにしておいた。
 ナッシュを先頭に、目的の場所へ急ぐ。
 伝わってくる気配から、すでに戦闘は佳境といって良いだろう。それと反比例して『真なる
風の紋章』の気配に揺らぎが出始めていた。そしてルックの命の気配も…。









 (last up 2008 8/12)   
 ぶっちゃけ、オールスターズにしたいところですが。
 星辰剣あたりは、ぶん取ってきたら事足りるんですけどね〜。
 あの方の介入は直接的には描写はない筈です。