神殿の中に足を踏み入れると、中は強烈な殺意に満たされていた。
異界から召喚された異形の生物達が放つ殺気。その殺気を退けるそれ以上の人の意思。心の
弱い者が踏み入れようものなら、殺気と意志の飽和に中てられ卒倒していただろう。
空を切り裂いた後、棍から鈍く伝わる感触を確かめながら、
「しっかしまぁ…、よくもここまで異界のモンスターを召喚したものだよ…」
と呆れ加減で感想を洩らすイーヴァ。場所は違うというのに、過去グレッグミンスターでの最
終決戦を思い出させる。過去の決戦も、ウィンディが異界から召喚したモンスターによって苦
戦をさせられていた。…あの時は、後から来たレックナートのお陰で、モンスターと戦う事を
回避出来たが…、今回はそうは行きそうに無い。
やれやれ…と溜息をつきながらイーヴァは、接近してくる敵へ、上段から天牙棍を振り下ろ
し、モンスターを地面にひれ伏せさせる。間を置かずに左一線、ゴーストアーマーを壁に埋没
させた。
「本当に…、『以前』を思い出させますよね。僕の場合はルルノイエですけど…」
王城なのに騎士衛兵よりモンスター多かったですし…、と天威も負けず劣らず、天命双牙の
二打撃をもってエムプーサを瞬殺した。
その反動を以って、二人はお互いを見合すと前方に展開するモンスターに殴り込みをかけた。
「…ほほ、時間が経てどまだまだ息の狂いは無い様じゃのう」
ダブルリーダー攻撃によって、一木一草悉く。モンスターは消滅させられた。
白く細い指先を飾る、アーマーリングと形容してもあながち間違いではないフルムーンを煌
かせ、二閃を以って敵を切り裂いた。
「誉めて戴けて光栄ですよ」
「小童卒業が目標ですからね」
粗方、天威達の周辺に潜むモンスターは駆逐したのか、周囲からは殺気を確認することは出
来ない。
「露払いはこの程度で十分かのう?」
足元を埋め尽くす屍骸に目をやりながら状況を考える。たとえ決戦を終えたとしても、これ
だけの規模を誇る神殿。脱出自体容易ではないし、疲労の溜まった身体での脱出劇自体困難な
ものだ。
「僕らってホント、優しい先輩ですよね」
もうちょっと世間の厳しさ、思い知らせても良いかも知れませんね。と良い運動後のイーヴァ。
「まぁ全部駆逐って訳にも行きませんけどね。実際、奥に行く為には退治は必要な事ですし」
天命双牙をホルスターに収める天威。
「それにしては…、少々迷い過ぎている気もせんではないがな」
そんな二人に付き合うカタチのシエラは、見え透いた意図を愉しんでいる。
「…実際に、僕らが本腰を入れて動くのはもう暫くしてからですしね」
真の紋章、その始祖たる『始まりの紋章』からはまだ、戦いの波動は感じられない。まだ彼
らは見えていない…。
「しかし、僕には状況が悪いな。こういう戦場はソウルイーターの手癖の悪さが露見する…」
先程からの戦闘で心なしか、嬉々とした感のあるイーヴァ。紋章の性質上、ソウルイーター
に戦場はそれこそ餌の宝庫と言っていいだろう。無尽蔵に餌が供給される以上、継承者がその
情態に左右されてしまうのは、仕方の無いことだろう。
「紋章の手癖の悪さは兎も角、お主のタチの悪さは元々であろうに。何を今更…、紋章をいい
訳にするで無いわ」と呆れた顔で息を吐いた。
精神に強い影響を及ぼす『月の紋章』の継承者に言われると、否定出来る筈がなかった。
「結局…、最後にならないとどうにも出来ないんですね…」
「…………」
自分達が動くに至るまで…。結局、結末がどのようになるか決定するまで身動きが取れなか
った。早い内から、グラスランドでの異変を確認していながら…、天威もイーヴァも手段を講
じる事は出来なかった。
国を越えられない。
そう表現が適切だろうか。まるで紋章を拒んでいるかのように、…特に天威は自国から出る
事が叶わなかった。真の紋章による介入を世界自体が拒絶しているようで。
「致し方なかろう…。
あ奴はそれだけの事をした。…だからこそ、同等の裁きを受けねばなるまい」
それ自体、理解の内。
ここにいる内で、唯一動向を確認し続けていたのは、傍観・中庸の性を持つシエラだけ。彼
女だけが、グラスランドに立ち入りその様相を見る事が叶った。そして、今も変わらず傍観の
立場を崩していない。
「ルックじゃなくても……、きっと誰かが同じ事をしたと思いますよ…」
彼でなくとも…、自身の可能性を否定出来ない。右手に宿るソウル・イーターを危惧する感
情は未だ色あせる事は無いのだから。
「だから…、彼を責めない」
「僕は一番言われたくない言葉、言ってやりますけどね」
「何と言うつもりじゃ?」
面白そうにシエラが天威に問うと、少し間を空けて
「馬鹿だね、ルックは」
どっと笑いが溢れた。
「それは傑作じゃ。あの鼻持ちならぬ小僧に今ぴったりの言葉よ」
「ルック、きっと不愉快な顔するだろうな〜。否定は出来ないだろうしねぇ」
「『切り裂き』の覚悟はしておきますけど、言ってやるつもりですよ。
それから、取っ組み合いの喧嘩に持ち込んでもいいですしね」
「ルックならきっと魔法でし合うと思うけど」
キミみたいな体力馬鹿とやってられるかって。不愉快不本意不機嫌な顔を隠そうともせず。
「世界が許しても、僕達は認めない。
君の選択は間違ってしまったけれど、キミの想いは間違いじゃないから。
君のいない世界を僕達は否定する」
(last up 2008 7/22) ← →
一話が短いのはご勘弁下さい。
空間が限定されている所為でどうにも、話に幅を持たせられないです。未熟です。
思ったよりも話数は少な目です。後2、3話くらいかと。