ホウアン一行に、ゲオルグ・プライムなる剣士が加わり、三人パーティーと
なり、まずはコロネに向かった。
コロネに着くまでの間の道のりで、案の定モンスターが出現したが、一応身
を守る術を心得ているトウタが石礫で応戦しようとする前に、ゲオルグがモン
スター全てを片づけてしまっていた。
瞬く間、としか言うことが出来ず、ホウアンは瞬きをする暇がなかったし、
トウタなど、石礫を持って投げようとしている今の体勢をどうすればいいのか
困ってしまったものである。
ゲオルグはたった一人で複数のモンスターを、まさしく二の太刀いらずで倒
した。
「……見事なものですねぇ〜」
後ろに控えていたホウアンが、戦闘が終わったのを見計らって出てきてそう
言った。
そんななんだかんだが起こりながら、何度もモンスターと遭遇することもあ
ったがようやく、目的地であるコロネの街についた。
「は〜〜〜、ここがコロネなんですかぁ〜」
初めて見るコロネの街並みに唖然としながらも、街にちらほらと見えるハイ
ランド兵の姿に顔を曇らせた。
「…ハイランドの兵がいるんですね……」
ハイランドの兵が彷徨いているため、人は動いているが街に活気は無かった。
「……」
「…………まぁまずは宿に入ろうか、こんな所でつっ立っていたって、邪魔に
なるだけだからぁ……」
「さて、どうしたものですかね。
この様子だと、クスクスへ行くための船も出ていないでしょうからね」
コロネの街に唯一ある宿屋に三人部屋をとって、腰をまず落ち着けたホウア
ンがため息混じりで言った。
「パッと見た限りだが、どうやら完全に街はハイランドの配下におかれている
ようだな。街も交易すら禁じられている状態のようだ」
窓辺に腰をかけて間延びした口調で、ホウアンに答えた。
「じゃぁ先生、僕たちどうすることも出来ないんですか?」
ホウアンの向かいに腰掛けたトウタが不安そうに尋ねた。ここで、ぐずぐず
してはいられない、一刻も早く天威やビクトール達と合流したいという気持ち
でウズウズして、しょうがない状態だった。
「湖を渡るための船が出ていないのですからね、どうしようもありません」
「…………」
「…………」
「大変だっ!! サウスウィンドゥが、サウスウィンドゥが陥落したーーっ!!」
「なっ!?」
「そ、そんなっ!?」
「…………」
窓の外から入ってきた住民の報は、トウタとホウアンに衝撃を与えた。
『……なかなかやるもんだな。見事な手際だ…。
…ミューズを陥落させ、間をおかずにサウスウィンドゥを落とすとはな。こ
れで周りの街共は尻ごむ……』
「さて、一番最悪な結果となっちまったてことになるな。サウスウィンドゥが
落ちたとなると、ラダト、レイクウェストが落ちるのも時間の問題だな。もし
くは…、レイクウェストではなくトゥーリバーを直接叩くかのどちらかだな…」
大して困るそぶりもなく、淡々と状況推測をゲオルグは言った。
「…………。
私はしがない医者でしかないので、戦略や戦術云々という話は判りませんし、
この後ハイランドがどう動くかなんて、今ゲオルグさんが仰ったことぐらいを
漠然と想像することしか出来ませんが、私が今出来ることが何なのかは心得て
いるつもりです。
例えどんな状況であれ私は、サウスウィンドゥへ行きます。それが今出来る
最善の事だと思っています」
「意志は固い……ようですな。
では、まずは情報収集といきますか。情報がなかったらどう動けばいいかも
判らなんから」
にまっと顎をしゃくりながら笑って、ゲオルグはトウタの方を見た。
「坊主、そこで出番だ」
「僕ですかっ?」
ちょこんとイスに座って二人の話を聞いていた状態で、いきなり名指しされ
跳ね上がるように体を起こした。
「あぁ、俺のような奴が街を歩いて情報探しをしていたら、いかにも怪しんで
下さいと言っているようなものだし、ホウアン先生だと、これまた反対に場違
いすぎて怪しまれる。そこで、まぁ丁度、坊主なら打ってつけなんだよ」
「どうしてですか?」
「『坊主』だからさ。しかも外見からまず間違いないく怪しまれることのない
外面をしているからさ」
「…………・、それ褒めているんですか?」
何かどうも褒められていないようなことを並べられて、でもその事を必要と
されているので何か腑に落ちない感じがする。
「坊主、外面が悪くてどんなに悪い事して無くても疑われるより、外面良くて
疑われない方がいいだろう。そりゃ、人の持った得ってもんさ」
「………何か騙されているような気がします…。でも、役に立つんだったら頑
張ってきます!!
でも、どんな事すれば良いんですか?」
いわゆる聞き込みというものだが、具体的にどんなことをすればいいのか、
良い子ちゃんのトウタにはぴんとこなかった。
「具体的に何かする必要はない。ただ、人の話を盗み聞いてくれば良いんだ。
今必要としていることは、こことクスクス、サウスウィンドゥの状態がどうな
っているかって事だから、街の人間の話で十分だ。まぁ、後、人の良さそうな
人間がいたら、聞いても差し障りのない事を聞いてみるのも手だな。
まぁ、観光気分で街をぶらついてきたらいいさ」
「……判りました。お話、盗み聞いてきます!!」
「おう、その意気だ。でも、張り切って兵隊なんかに話を聞くなよ。疑われる
からな」
「はいっ!!」
「トウタ、任せることになりますが、あまり無理してはいけませんよ。危険だ
と感じから、すぐに宿に戻って来るんですよ」
「はいっ、行って来ます!!」
そう言うと、いつものように黒鞄を持ってお使いにでもいくように、外へ出て
いった。
街は活気に溢れてはいなかったが、それでも交易をしている人間があちこち
にいて、積み荷の取引、今後の検討をしていた。
街には魚が溢れていて、何処を見ても魚の姿が目に付いた。ミューズに居た
時、色々な魚を食べたりしていたが、ここではミューズでは見なかった魚も色
々おいてあって、初めて見る魚があったり、どうやって食べるのか判らない魚
などがあって完全おのぼりさん状態だった。
トウタは、あちこちの店を覗きながら、ミューズやトト、リューベでは見な
かった物を見たりして、楽しんでいた。
と言っても当初の目的は忘れたわけではなく、店の中に入れば耳を澄まして
買い物客達の会話を聞いていた。
身長が低いお陰で、足下の死角にいても怪しまれることなく、気づかれるこ
となく人の話を聞けた。
「ゲオルグさんの言っていた、役に立つって、僕の身長のことも言ってるんじ
ゃないかな……?」
と自分の身長の低さをちょっぴり恨んだトウタ君だった。
倉庫や店の方は一通り見終わったので、トウタは船着き場の方にいくことに
した。
「ハイランドの兵が居るんだよね……。気をつけないといけないなぁ」
とドキドキしながら、船着き場の方へ歩いていった。
流石に船着き場の方は物々しい雰囲気に包まれていて、殺気立っているよう
な感じであった。
船着き場にいる船乗りに話を聞いてみると、「ハイランドが船を出すことを
禁じてからなぁ、こっちゃ商売上がったりだよ」と皆口を揃えて言った。
ハイランドの兵が行き交っていて、荷物を運び込んだりしていて少し覗きに以
降としたら、「民間人は立入禁止だっ!!」と言われて追っ払らわれてしまった。
「話も聞けたもんじゃないなぁ……」
と愚痴りつつ、うろうろした。
「クスクスの方も、同じようにハイランド兵が出張ってるそうよ」、「タイ・
ホーさん、お腹下したって」、「吸血鬼が出たそうよ」、「ノースウィンドゥ
にミューズやサウスウインドゥの残兵が集まっているって噂が…」、「ハルモ
ニアの剣士が何か嗅ぎ回ってるって」、「奥さん、秋ですのよ。寝覚月の二つ
目の先勝の日ですって」、「遅れなきゃ良いんですけど…」などと最後の方は
どうでも良いような内容まで入ってきた。
「う〜ん、こんな内容で本当に役に立つのかな」
コロネ内を歩き回ったため、流石に疲れたのか樽の後ろに座って人の話を聞
き続けていた。
「一応まずは戻ってみようかな。僕じゃわからないし…」
と言って立ち上がり、今来た道を戻ろうとした。
その時ふいに、何かを感じたのか、トウタは来た道の反対方向を見た。そこ
にはあばら屋があって、船が一層停泊していた。
「あんな所に、家がある…」
まだ見ていないなぁ、と思い、そのあばら屋を探索することにした。
船着き場からかなり離れた場所にあって、コロネの街全体の道は石畳がしか
れていたが、あばら屋へ続く道は土のままで、草が茂っている状態だった。
「変な人が出て来なきゃ良いんだけど…」
恐る恐る近づいていくと、何やら人が言い合う声が聞こえてきた。
『…ンッ!!、ざまねぇな』、『……ほざけ…』、『…キ、体に…・』などと
あまり穏やかな状態ではなさそうな声だった。
そろそろとあばら屋に近づいていき、まずは扉に耳を押し当て中の様子を伺
った。どうやら中には三人の人間が居るようだった。
『フンッ、お前の運も落ちたもんだな。チンチロリンで運使い果たしたんじゃ
ねえのか?』
『……ざけてろ。うぐぐぐ…』
『シーナさん、この辺で戻ったらどうです。兄貴はこんな状態ですし、まずは
兄貴の体調が戻らない限り、船は出しようがありませんし……』
「船」の一言で、反応したトウタは扉から体を起こして、扉の横の窓からそっ
と覗いた。金髪の髪の短い青年に、白っぽい髪で顔半分まで隠れている青年、
横になって苦しんでいる男が見えた。
『この前、女の子ばかり乗せていきやがって……』
『……別嬪だったぞ。ついでに言うと、あの坊主は俺のチンチロリンの勝負に
勝ったんだ、てめぇと大違いだぜ……』
『……けっ』
金髪の青年は、このまま粘ったところでどうにもならないで、仕方なく二人
のいる場所から退散することにした。
こちらに向かってくるのが判り、すぐさま頭を引っ込め、あばら屋横に置か
れてあった物陰に身を潜めた。大体、シーナが家を出る前にこの場から立ち去
るというのは、トウタの足では毛頭無理であった。
機嫌悪そうにあばら屋から出てきたシーナは、
「くっそー、金もなくなったし、戦況は悪化しそうだし、可愛い子はいないし、
こんな所にいたってしょうがねぇのに……。だぁーーーーー、ちくしょう!!!」
と険悪な状態で振り向いた時、偶々、偶然、運悪く、シーナのその姿を覗い
ていたトウタの目とシーナの目が合ってしまった。
「…………」(何やってんの? Byシーナ)
「…………」(DIEぴ〜んち!! ば〜いトウタ)
3秒後、ヤバさに気づいたトウタは、ダッシュをかけてこの場からの撤退を
試みたが、あえなく失敗した。
身長差とは無情なもので、シーナの一歩はトウタの二歩にあたり、トウタが
いくら走っても、シーナが走れば追いつかれるのは必然で、ちゃっかり、エプ
ロンの背中で交叉している帯を掴まれてしまった。
「うぅ〜〜〜」
とじたばた暴れるがしっかりとエプロンの帯を掴まれているため、逃げように
も逃げられなかった。
「…おい、ボーズ。お前、ここで何やってんだ?」
「…………」
「…………別に取って喰いやしねぇよ」
暫くの間、じたばたしていたが逃げられないと、観念したのか暴れるのを止
めて、帯を掴まれたまま、かくかくしかじかと経緯を話す事となった。
「……実は、僕たちサウスウィンドゥまで行きたくて、船を渡してくれる人は
いないか探していたんです。
色々と探し回っていたら、話し声が聞こえて、何かなって思ってここの家を
覗いていたんです……」
しくしく、しょんぼりした感じ…、喰われるのを覚悟して白状した如くである。
「ふぅ〜ん…。
着眼点はいいんだけでさぁ。確かにここの二人は、漁師で舟持ってるけど、
俺同様、タイミングが悪かったな」
「??? お兄さんも?」
「俺も向こう岸に行きたいんだけどね、問題の二人の内一人が、腹下しちまっ
ていてね、船を出せたもんじゃないんだよ。
っていっても、普段は普段で美人か気に入った人間しか船に乗せない人間だか
らな、ピンシャンしてても問題かもしれないなぁ……」
と言ってガックリ肩を落とした。
「お兄さん、中の人、お腹下しているんですか?」
肩越しにガックリしているシーナを見て、トウタは尋ねた。
「ん? あぁ、タイ・ホーの野郎、何か悪いもの喰ったらしくって、ここ数日
呻いているぜ」
「…………だったら、何とかなるかもしれないなぁ」
ぽつりと呟いた。
「何だって? どういうことだ」
「え〜と、僕、一応医師見習いなんです」
確かに、薬の文字のエプロンに、黒い医者鞄を見れば、そうかもと思うが、
パッと見、言われない限り…………。
「それで僕のお師匠様のホウアン先生が、今宿屋で待っているから、大体の症
状さえ判れば、お薬を調合できると思うんですけど……」
「本気?」
「はい、マジです。先生の腕は本当にいいんですよ。先生は恥ずかしくってそ
う言うのはやめてくれって言うけど、ミューズの街の人はみんな、「名医だ」
って言ってましたもん」
と自分の師匠のことを誇らしげに言った。
「……『名医・ホウアン』か……、
おしっ、ボーズ、確かに何とかなるかもしれないぞ」
「本当ですか!?」
「ああっ、上手く話を進めることが出来るかもしれない。あいつだって、いつ
までも腹痛に苦しんでいたかねぇだろうし……」
「じゃあ、まず先生達にその事を報告しに行かなきゃ!!」
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