『サウスウィンドゥ珍道中』3 




  

 有力な情報を手に入れ、トウタは早速、ホウアンとゲオルグが待つ宿に戻っ
た。
「ホウアン先生っ、ただ今ですっ」
「お帰りなさい、トウタ」
「おう、坊主、ご苦労だったな」
 役に立つかもしれない情報を手に入れたため、満面の笑みでトウタは戻った。
「何事もなかったようで、何よりです。
 何か話を聞くことが……、トウタ、後ろの方はどなたですか?」
 トウタの後から、部屋に入ってきたシーナの事をホウアンは、不審には思わ
なかったが、トウタに聞いた。
「はい、シーナさんです。船着き場の近くで会ったんですけど、シーナさんの
お知り合いの方が船を持っているらしくって……」
「本当か?」
驚いた顔でゲオルグが見た。
「んまぁ、初めましてってところかな。
 三年前からの腐れ縁っていうのか、つき合いの奴がここに来ていて、船渡し
とか荷運びとかしてるらしんだけど……、ちょっと前にも、ほんの前だけど、
6人の集団を、ハイランド軍なんてお構いなしに向こう岸まで乗っけていった
から、俺も乗せてもらおうと思ったんだけど……」
「だけど?」
「今、そいつ、タイ・ホーの奴、腹下してるらしくって動かそうにも動かせな
い状態なんだよ」
「…お腹を下してたとは、何か悪いものでも食べたのでしょうか?」
医者的な質問がなされた。
「さあ、ヤム・クーはピンピンしているからなぁ、腹でも出してて冷やしたん
じゃねえのかな」
「シーナさんの言うには、お腹さえ治れば、船を出してくれるかもしれないっ
て言うことなんですけど……」
 ヤム・クーの実態を聞いているトウタは幾分か不安が残るが、それでも一番
有力な手だと思われるため、提案することとなった。
「なるほど、そう言うことか。
『いざとなったら、薬を盾にして強要する』ってわけか」
 何ともまぁ、悪どい……。
「おっさん、言いようが悪いよ。協力してもらうんだよ。協力」
 まぁ、それくらいのことしたって、大したこと無いけど、とシーナは漏らし
たが……、医者としては風上にも置けないことだ。
 しかしそんなこと言っていられる場合ではなく、状況は一刻を争う状況だっ
た。
 ホウアンは暫くの間、考えていたが、溜息と共に重い口を開いた。
「……不本意ですが、それ以外に手がないようですね。 ええと…」
「シーナだよ」
「シーナさん、上手く事が運ぶ可能性はどれくらいのものですか?」
「…………・」
壁にもたれ掛かり、口に手を当てて暫くの間思考を巡らし、
「……断言は出来ねえけど、中以上ってとこ? タイ・ホーだけなら辛いモ
ンがあるけど、弟分のヤム・クーがいるからな。治療してもらったとなると、
あいつの口添えにも期待できるし、借り貸しって事となると煩そうだしな。
 俺なんかに借りを作りたくないって事で、上手く事が運ぶと思うよ」
「それなら、乗らない手はないな。乗り遅れたらそれまでだし…。
 どうだい先生、どうする?」
「機を逃すことは出来ません。そうなれば善は急げです。シーナさん、その人
の所まで案内してもらえますか?」
「おうよっ。ところで、先生」
「何です?」
「先生とそこのオッサンのナマエ教えてもらえない? ちょっくら居心地が悪
くってね」
「ああ、そうでしたね。自己紹介まだでした。私はホウアンと申します」
「俺はゲオルグ、ゲオルグ・プライムだ。よろしくな、小倅」
「…………」
「ところでシーナさんは、どうしてクスクスの方へ?」
「…っああっ、ちょっとバナーの方に用があって……」
「バナーですか。じゃ、トランの方に戻られるのですか?」
「へっ?」
「シーナさん、トランの方でしょう?」
「あーーー、はい、そですけど…よく判りましたね……」
「言葉で判りますよ。私も一時期、トランの方にいましたので…」
「あっ…そなんですか」
「ご存知でしょうか、リュウカンという方に教えを請っていましたので」
「いぃっ、リュウカンっ!?」
「おや、ご存知でしたか?」
「ええ、ああ、まぁ、ちょっとばかし世話になったんで……」
 ……ちょっとばかりではなく、あのトランの解放戦争時、しっかり、きっ
ちりお世話になって、知らないはずもないのだ。怪我して帰ってくると、治療
の際、くどくどと説教をするためどうもいい思いがしないのだった。腕は確か
だったが……。
「では、ホウアン殿はあの解放戦争の折は、トランに?」
後ろで話を聞いていたゲオルグが話に入ってきた。
「いえ、あの頃にはもうこちらに戻ってきていました。
 そう言えば、師もあの戦争に参加なされたとか……。あぁ、こんな所で長
話をしている場合ではありませんでしたね、早速行きましょう」
というとトウタと共にパタパタと出て行った。
「……」
 ホウアンの背中を見た後、横に立っているゲオルグの暫く見ていた。
「どうした、小倅。置いてくぞ」
「おっさん、その『小倅』ってやめてもらえる? 
 ……何だって、赤月帝国六将軍がこんな所にいるんだよ」
「お前には関係あるまい……」





「じゃあ、先生。よろしく頼みます」
と、相変わらずの態度でタイ・ホーの家に入っていった。
「タイ・ホー!! 邪魔するぜっ!!」
とずかずかと我が物顔で歩いていった。
「あぁ、シーナさん……・」
「…………何、しに来や、がった……。とっとと失せろや……。
てめえ何ぞを乗せてやれる、船などありゃしねぇよ……」
「かっーーーーーっ!! やな奴だねぇ…、こっちは折角てめえのことを心配し
て医者つれてきてやったのに…」
「お医者さんですか? よく、居ましたねぇ。この辺りに医者なんて居ないっ
て思って、諦めていたのに……」
「日頃の行いが良かったんだろうよ」
「それでシーナさん、その先生は?」
「あぁ、ちょっと前に知り合ってね。タイ・ホーのこと話したら、放ってはおけ
ないって……、ホウアン先生っ」
シーナに呼ばれて、ホウアンはトウタと一緒に部屋の中に入ってきた。
「初めまして、ミューズで医師をしていたホウアンと申します」
「初めまして、ヤム・クーと申しやす」
「シーナさんにお話を聞いたら、お腹の方を下されたと聞きまして、放っておい
たら大変なことになるやもと思いまして、厚かましながら……」
「いえ、よく来てくれました。
 ちょっと前なんですが、食べ物にあたったんじゃあないとは思うんですが腹の
調子をくずしちまって…、見てやってもらえませんか」
「…………」
「はい、勿論」
 それからタイ・ホーの元へ行き、あれやこれやと診察が始まった。
 黒い鞄から、聴診器が出てきたり口を開いて喉の様子を見たりと、色々とガサ
ガサとした。
 ある程度して、一通り診察が終わったらしく、後ろに控えていたトウタに指示
を出しながら、ヤム・クー達に向かって
「峠の方は越えていたようですが、根の深いもので完治するのにまだ一週間はか
かるところでしたよ」
「そんなにですか」
「はい。でも、もう大丈夫ですよ、お薬の方を処方しておきますので、これを飲
めば明日にも治ります」
「本当ですか、ありがとうございます」
 そう言って、トウタから薬を受け取ったホウアンにその薬を貰おうとした時、
横からその薬を、ひょいっと取り上げ、寝ているタイ・ホーの方に言った。
「おい、タイ・ホー、まさかただで薬がもらえると思ってないだろうなぁ」
と非常に性格の悪そうな声を投げかけた。
「…………」
「やっぱ、それなりの見返りってモノを要求しても、罰はあたらねえと俺は思う
んだけど……」
「…だったら、失せやがれ…。てめえの事だから、どうせ、そんな魂胆だろう
と、思ってたわ…・・。 てめえの世話なんかにならねぇ…、とっととそこの
先生連れて帰りやがれ…・」
「ふぅ〜ん。意地なんかはっちまってさ、いいのかい?先生の話だと、薬を飲ま
なかったらまだこの後一週間は、かかるって言っていたぜ」
「…………」
「タイ・ホー、素直が一番だぜ。下手に意地張るととんでも無いことになるぜ」
「…………」
「それによぉ、このホウアン先生は、何とあのリュウカンのお弟子さんなんだぜ、
絶対、お前を苦しめている腹痛も、この薬飲めば、一発で治るって」
「…………、用件は」
「俺達、…外にもう一人居るんだけどさ、向こう岸のクスクスまで船で渡すっ
て事。ただそれだけさ」
「……………………ちっ、運の付いてねえの…………」


 何とか、タイ・ホーを説得するのに成功したホウアン一行にはもう一つ仕事が
残っていた。
 船着き場にうろつくハイランド兵という問題。
 先日、タイ・ホー達はクロノ達をクスクスに乗せていったばかりで、流石に今
回船を出すのは、ハイランド兵の目も光っていることだろうか、そう以前と比べ
て簡単に出来たモノでもないだろう。
 そんなわけで、少しの間ハイランド兵に黙ってもらうために、一行動起こすこ
ととなった。
「薬〜、薬はいりませんか〜? おくすり、胃薬、風邪薬、酔いどめ薬、なんで
もあります〜〜〜」
「おい、坊主。薬をくれっ」
「はい〜、毎度〜。兵士さん、何のお薬がいりますかぁ〜〜〜?」
「酔いどめの薬をあるだけもらえんか? 船になれていない奴が多くてな、明日
船を出すことになっていて湖の上で半死半生になっては困るからな」
「はい、判りました〜。はい、これ、酔いどめのお薬です。
普通に飲んでも効くんですが、船に乗る直前にお酒と一緒に飲んだら、よく効き
ますよ]
「ありがたい、これはほんの礼だ受け取っておいてくれ」
「どうもありがとうございました〜〜〜」

【酔いどめ薬】 成分 マイナー○ラン○ライザー。
【使用上注意】 決してお酒と一緒に服用しないで下さい。酩酊する危険性があります。
(これを好奇心等で実行した方に関して、一切、責任を持ちません。)
 
 笑顔全開で、酔いどめ薬を売ったトウタ君だった。


「わ〜い、やっと着いたぁ〜〜〜、クスクスの街だ〜〜〜」
 念願のクスクスの街、やっと来ることが出来た。
「ホントそうですね。さてこれから、サウスウィンドゥに行って、ビクトールさ
ん達がどうしているかを調べないといけませんね」
「いぃっ!?、ビクトール達もここにいるのかよぉ。…てことは、もれなくフリッ
クもセットでって事かぁ……」
 ホントうんざりしたような、反対に何か面白そうなことが起きそうな感じの顔
で呟いた。
「おや、ビクトールさん達もご存知でしたか?」
「これも腐れ縁だなぁ……」
「……、さて我々はサウスウィンドゥに向かいますが、シーナさんはこれから
どうなさるんですか?」
 この質問に対して、シーナは大して考えた風でもなく、
「俺はまぁ、ぶらぶらするよ。こっち側にさえわたれれば良かったんだからね」
「そうですか、では、ここでお別れですね。 お気をつけてくださいね」
「あぁ、先生達も気ぃ付けて。…まぁ、そこのオッサンがいれば無敵だと思うけ
どね」
「当たり前だ。俺に勝てる奴なんぞ、おらんぞ」
「ほら、これだ……」
「シーナさん、もう会えないんですか〜?」
 シーナの下の方から、声がした。
 少しの間で仲良くなったトウタ。流石に、これっきりというのは淋しいモノが
ある。そんな訳で、非常に残念そうな顔をしていた。
「心配すんなよ。大丈夫、またそのうち会うことになるんじゃねえかな…」
「????」
「何て言ったって、三年前のあの連中が、こんなにも同じ場所に存在しているん
だからね。何もない方がおかしいよ。
 そのうち会えるさ」
 んじゃまぁ、そういうことで、という軽い感じで、スタコラサッサと何処ぞに
失せていった。
「また、会えると良いですね」
「そうですね。
 さて、私達もサウスウィンドゥに向かいましょう。こんな所で油を売っていら
れませんからね」
「はいっ、じゃあ、サウスウィンドゥに れっつごー!! 」




 (last up 2000)  マイナー連中を書くのが好きなんです…。