空は高く、青く澄み切り、ピーヒョロロ…と鳶が啼く声が聞こえる。
北狄から城を守るべく鎮座するデュナン湖に釣り糸を垂らして、トランの英雄イーヴ
ァ・マクドールは釣り糸に魚が喰らい付くのを穏やかに眺めていた。
「首尾はどうですか?」
振り向けば、この銀嶺城城主にして締南国国主天威が立っていた。
「この通り。時期が時期だからみんないい感じに油が乗っているよ」
と、魚篭を指して見せる。中には太りよく油ののった魚が何匹も入っていた。
「大漁ですね。
この様子だと、マリネに塩焼き、ムニエル…なんでもいけそうですね」
「後でシェフにお願いしようと思ってるんだ」
試に竿を動かしてみるが、魚が喰らい付きそうな気配は無い。
「僕もお相伴預かっても良いですか〜?」
「当然。喜んで、だよ」
そんな穏やかな締南国デュナン湖での一風景。
「…と言うわけで、ビッキー。カレリアにテレポートお願い」
とビュッテヒュッケ城入り口、瞬きの大鏡の前に集ったのはリーダーであるヒューゴ、ク
リス、ゲド、ナッシュ、クィーン、そしてビッキー。
「うん、まかせてっ!」
と笑顔一杯で応えるビッキーに対して、パーティーの最後尾にいるナッシュは嫌な予感が
して堪らなかった。…何故か、と言われると答えに困るのだが。不幸属性不運装備のナッ
シュには何か癇に障って仕方がなかった…。そんなナッシュをクリスは憐れそうな視線を
送る…。
「お〜ぅ、ちょっと待ってくれや〜」
階段の踊り場からヒューゴ達に声をかけたのは、万年眠そうな顔で寝癖頭の軍師シーザ
ーだった。
「シーザー、どうしたんだ?」
「や、ちょっとね。俺も連れて行って欲しいな〜って思ってさ…」
浮かべる表情はやや引き攣る様で、妙に余所余所しい。そんなシーザーに対してヒュー
ゴは
「サボり…?」
「リフレッシュだよ、リフレッシュっ!」
アップルさんってば、睡眠時間削って書類終わらせたってのに、またどっからともなく
書類出してくるんだぜっ!やってらんねーよっ、との事らしい。
「判ったよ。今日はそんな危険地帯に行くつもりは無いから大丈夫だよ」
「流石、ヒューゴ。話が早いぜっ」
と満面の笑みでシーザーが戦列に加わった。
「じゃ、ビッキー。よろしく」
パーティーがビッキーの前に固まったのを見て、ヒューゴが頼む。
「うん、いいよ。
それじゃ……」
『はっくしゅんっ!』
デュナン湖の桟橋に並ぶ影は、いつの間にか二つに増えていた。
景気良く釣るイーヴァの姿に天威も釣り魂を刺激されたのか…、差し迫った仕事が無か
ったこともあり、イーヴァと並んで竿を垂らしていた。そんな二人の姿を城の住人は穏や
かな表情で見守っていた。
「…大分、釣ったよね……」
イーヴァの魚篭は大漁で。
「…ちょっと釣り過ぎって感が否めませんよね…」
後発でありながら天威の魚篭も大漁だった。
「レストランの仕入れは決まっているから、コレ全部持っていっても捌ききれないだろう
し…」
「そうなると、キャッチ&リリースか…」
無駄に殺生するわけにはいきません。二人は魚篭を持つと、適度に魚を湖に帰した。
「さて…、長い間の釣りでおなか減ったね」
「そうですね、レストランで軽食でも食べましょう」
確か今の人気メニューは、城の女官達オススメの季節の果実タルトだと耳にした。まだ
食べていない事だし、丁度良いかも…と天威は思った。
「ついでに今日の収穫も渡せばいいしね…」
竿を持ち魚篭を下げて、桟橋から城へ足を踏み出した。
「だからっ、俺は嫌だったんだーーーーーーーーーッ!」
という悲鳴と共に、
『ビタタタンッ』と強か水面を打つ音が聞こえた。
「一体、何がっ!」
と翻して見ると、デュナン湖面に幾つもの水柱が上がり…、水面から勢い良く出した顔は
「ヒューゴ、クリス…、ゲド…殿か…?」
「一体、どうして……?」
という呟きは、あまり意味を成さないだろう。イーヴァと天威、何が理由か呟いた後に
気が付いた。
「ビッキー……、だね…」
水柱が上がった後、ゲドやクィーン、ビッキーはすぐさま、桟橋に泳ぎ着き水面から上
がって、ヒューゴやシーザーは少し桟橋から離れていたが、騒ぎをみた人間が投げて寄越
した浮き輪を掴んで、ほうほうの体で泳ぎ着いた。
「おっおいっ、クリスがっ! 甲冑の所為で浮いて来ないっ!」
クリスの傍にいたナッシュが、甲冑の重さで浮く事が出来ず沈んでいくクリスを捕まえ
るのにもがいていた。
確かに。ゼクセン騎士団はマチルダ騎士団と違い、甲冑重装備。クリス自身、水を掻い
ているものの、金属の重さで浮く事が叶わなかった。
「あ〜、フルメイルか…」
呑気に呟くイーヴァ。そういや、クワンダ・ロスマンがそうだったなぁ…なんて思い出
しながら…。
「ど、どうしようっ!」
やっと助かったヒューゴ達。だが沈み行く者を助ける方法など、彼らにはなくて…。顔
面蒼白になりかけた時…
「お〜い、チュカチュラーッ!!」
と全く慌てた素振りも緊張感も無い声がデュナン湖上に響いた。
叫んだのは、当然…、
「締南の…、天威…?」
今自分の居る場所を察する事になったゲド達。
『グフルォォォ、クフルォォォォォ』
と独特な篭った何かの鳴き声が水面から響いてきた瞬間。
ザバァッと沈んでいたクリスとナッシュを頭部?に乗せた赤いオオダコが現れた。
「たっタコ……!?」
チュカチュラと呼ばれたオオダコは、クリスとナッシュを頭部に乗せたまま、ゆっくり
とした速度で桟橋へ泳いで行き、辿り着くとその長い手で二人を桟橋に上げた。
「!!!???」
まさかタコの触角に巻きつかれ、運ばれるなどと思いもよらず、クリスとナッシュは目
を見開いたまま凍りついた。
「ごめんね〜、チュカチュラ。ちょっと騒ぎ立てちゃって」
『コロコロ〜』
先程とはうって変わって可愛らしい?声を上げる。
「うん、ありがとう。チュカチュラもゆっくりしてくれればいいからね」
『コロコロコロ〜』
と、どうやら一人と一匹の間には会話が成立しているようで、チュカチュラは役目を果た
すと水しぶきを上げ、湖面に沈んでいったのだった。
「ねぇ、前はアビズボア…じゃなかったっけ?」
成り行きを見守っていたイーヴァが首を傾げる。以前紹介してくれた時は、大きな青い
タコだった筈だが…、と。
「そうですよ。アビズボアの子どものチュカチュラです。
なんでもアビズボアが、外の湖も知っておくべきだ…て言って、所謂一つの武者修行?
に出したわけなんですよ
で、僕もアビズボアに頼まれたから喜んで引き受けたって次第です」
「あ〜、確かにこの城周辺だったら、安全だろうしね…」
納得のイーヴァだった。
城から騒ぎを聞きつけて来た人間からタオルを受け取り。
何か言うべきなのだが、何をどういえばいいのかに困る。全員が全員、濡れ鼠。
そんな炎の運び手達を見て、苦笑しながら天威に
「…とりあえず、まずはお風呂に入って下さい。
そのままだとまず間違いなく、風邪引いてしまいますから…」
水も滴る何とやら、などと笑ってはいられない姿である。
促され、一まずヒューゴ達は天威の言葉に甘え、風呂を借りる事となった。
(last up 2007 10/14) →
ききみみの封印球使用はフェザーとアビズボア。BE理由は108星揃えたけど戦死者あり。
こんな感じでまた、登場人物の多い駄文ですが気長にお付き合いいただけると嬉しいです。