“西へ帰還す”で、ドアをノックするのがフッチではなくナッシュで、セラの転移が間に合わ
なかった……、というif話。not シリアスですから。
勢い余ってドアを開けた先には、目を疑う人物が立っていた。
「なっ!?」
とヒューゴやクリスが息を詰まらせたのは当然の反応で、あのゲドですら驚きと言える表情を
浮かべていたぐらいだ。
ドアの開閉音で振り向いたであろう妖術師・セラでさえも戦場では見せなかった表情、といっ
ても瞠目程度だが、見せていた。
「この妖術師っ!一体ここで何をしているっ!!」
と先陣切ったのは…当然クリスで、ヒューゴも瞬間遅れてだが抜刀し構えた。
『ドンッ!』
狭い室内に青白い閃光が花開いた。
抜刀したのがマズかった…。
歩く感電体クリスに抜刀したヒューゴ、入り口など狭いわけで洩れなくゲドとナッシュも電撃
の餌食となり、唯一最後尾であったフッチだけが災禍を免れた…。
「……、随分と礼儀を知らぬ者よのう…」
と眉一つ動かさず雷を放ったのは当然シエラで、何ら変わらずワインを傾けている。
「…それはこちらのセリフだ…。
その女は我々の……」
シエラの雷撃を正面から受け、膝をついていたクリスが痺れる体を起こしながら反論するが…
「お黙りなさい。無礼者は確かに貴方方でしょう?」
瞬時に杖を出し、クリス達にセラが差し向けた。
「ここを何処だと思っているのです?
締南国国主天威様の御前ですよ。御前にて、何の断りも無く抜刀するとは言語道断。
このような振る舞い、蛮族と呼ばれても致し方ないこと……」
戦場で見せる冷ややかな表情で杖を突きつける。
「その上…、イーヴァ様、シエラ様が居られる前でこのような暴挙…。
昨夜のユーバーの事もあり、捨て置きはしましたが。
いっその事、この場で貴方方の紋章頂きましょうか…?」
セラに浮かんだ表情は怒りから冷徹に変異して行き、室内は瞬く間に緊張が走った。
「何だとぉ!!」
これには当然、ヒューゴが烈火のごとく怒りを露にし、今にも飛び掛らんと構えるが。
「ヒューゴ、よせ」
シエラの雷撃を喰らっても何のダメージも無いゲドが止めに入った。
「何でだよっ、ゲドさんッ!」
電撃に耐性のあるナッシュもクリスの前に立ち攻撃を阻んでいた。
「…不本意だが、あの女の言う事は正論だ。
ここはグラスランドではない…」
そう言われ、口惜しそうにヒューゴとクリスは剣にかけていた手を下ろした。
「セラも。杖を下げて」
この修羅場においても、動じる事無く天威は穏やかで。
「折角会えたのに、そんな物騒な事しないで」
「…ですが……」
対するセラは、今まで見せたこと無い豊かな表情で不服を表す。
「セラは僕達に会いに来てくれたんでしょ?
なら、この場ではその件は『お預け』だよ」
苦笑しながらイーヴァも優しく宥める。
頭の上がらない二人にそう言われ、セラは
「はい、……はしたない姿をお見せして申し訳ありません」
と項垂れて、慎ましやかに膝を折った。
「…………」
そんなセラの姿に歴戦の戦士達は絶句するばかりだった。
「気にするでない、セラ。お主に非はあらぬわ」
と悠然にて嫣然と笑みを浮かべたのは、当然。
「どこぞの礼も躾もなっておらぬ阿呆が、返事も待たずにドアを開けたのがそもそもの事。
セラの所為ではない」
「シエラ様…」
ナッシュ処刑決定。
「天、ここは大分騒がしゅうなったのう…。
わらわは静かを好む。そろそろここに留まるも飽いたわ。城へ戻らぬかえ?」
「そうだね。議会は無事終わったようだし…。これ以上、ここに留まる理由も無いね…。
僕も銀嶺城のお風呂に入りたいなぁ…」
とのほほんとシエラとイーヴァがのたまう。
「キュオオオオオオオオオンッ!」
「あれ?フェザーだ?」
窓の方に首を廻らしてみる。天威がよく知るグリフォンの鳴き声が聞こえる。フェザーの声に
反応して、ブライトも咆哮を上げていた。
「フェザー? 城から彼が飛んできたっていうのか?」
「そうですね。何か無い限り城の皆はフェザーに頼みませんから…。
トランかハルモニア、何か動きがあったのかな……」
「……、ハルモニアが締南国に対して動きを見せるとは、思いませんが……」
『ハルモニア陣営』であるセラが訝しむ。現在、対外的にはグラスランド侵攻を行っている状態
で、締南にまで火種を飛ばすことはまず考えられない。大体3年前、ハイイースト動乱でハルモ
ニアとしては、面子に泥を塗る破目になった。禍根が消えていない状態で再び、動きを見せるの
は得策ではない筈だが…。
「…何にせよ、城に戻った方が良い様じゃのう、天威」
「そうですね。では戻りましょう」
そう天威が決断した瞬間、イーヴァ、シエラが即座に立ち上がる。
「セラ、お主も来るがよい。折角の再会に水を注された」
「シエラ様……」
有無を言わさず外套を翻し、音もなく階下へ降りる。その後をセラが転移で後を追う。
「ま、そういうわけだからさ。折角来てもらったけど、城で問題が起きたみたいだから。僕達は
これで失礼するよ。
フッチ、今度は会いに行くからっ」
「あ、天威さんっ」
しゅたっと片手をあげると、天威はひらりと窓から飛び降りた。
フッチはあまりの短い間の急展開に、目を丸くしていたが。我に返り、呆然としていたヒューゴ
を押しのけて、窓へ駆け寄った。
庭を見下ろすと、フェザーを囲むようにそれぞれが立ち、天威が瞬きの手鏡を掲げ…。
彼らはその場から消え失せた。
後には、ただ呆然と成り行きをただただ、見るしかなかった炎の運び手だけが残された。
(last up 2007)ヒデェ話だ…。でも何となく書きたかったのです。 ←