『闇への祈り』 2









  





 レオナの酒場にて。

 天威とナナミは頭を悩ましていた。

 ようやく軍議が一段落したため、また一〇八星探しをする事となったのだが、一体全体、

誰を連れていこうか、パーティーメンバーを誰にしようかという事に悩んでいた。



「誰連れていこうかな…? ビクトールを連れていこうと思うんだけどどうかな?《

「うん、それ賛成。他は誰にしようかな?……イーヴァさんの所に行くんでしょ?そした

ら、一人空けなきゃいけないよね。わたしでしょ、天威でしょ、ビクトールさん、あと二

人誰を連れていこうか?《

「……う~~~ん《

 あとの二人を一体誰にしようか? 二人はこの二人を巡って延々と頭を悩ましているだ。

何と言っても、仲間が百人近くいるのである。誰を連れていこうか悩むのは至極当然のこ

とだろう……。

 そんな時、後ろからアイリが二人の間に入ってきた。

「天威、何そんなに悩んでるんだ?《

 後ろからのぞき込むようにして尋ねてきた。

「あっアイリ、いやね、グレッグミンスターに行こうと思うんだけど、メンバーを誰にし

ようかなって思ってて……《

 メンバー表から目を離して天威がそう言った。

「グレッグミンスター?

 ってことは、あの人にも参加してもらうの?《

「うん。私と天威、ビクトールさんは決まったんだけど、あと二人誰にしようかって、と

ころで悩んでるの《

 ナナミは眉をしかめて、メンバー表と睨めっこした状態であった。

「ふ~ん、じゃあさ、あたし行ってもいいか?《

「アイリが?《

「うん、あまりグレッグミンスターって知らないからさ。トランの首都だろ?いろいろ面

白そうなモノもありそうだから行ってみたいんだけど?ダメか?《

「ううん!!行こうっ!!アイリが来てくれるんだったら、グレッグミンスターの街見学がじ

っくり出来るし《

 ナナミはやった~!!、と大喜び。

 攻撃力重視のパーティー編成だとどうしても、女の数が少なくなり、酷い時などナナミ

一人、という場合もあるくらいで、そうでない場合でも、年齢が離れていたりで、気を使

ってしまい、のびのびすることが出来ないでいた。アイリだと、自分とほぼ同じ年齢であ

るし、つきあいが長いからそう言うことに関しては、とても有り難かった。

「じゃあ、アイリで決定だね。

そうなると、最後の一人は誰にしよう?《

ナナミとアイリの嬉しそうな顔を見ながら、最後の一人を考えた。

「……考えてみれば、魔法が使える人が少ないなぁ…。

 魔法と攻撃どっちもいける人って誰かな……《

と天威が頭を悩ましていたら

「魔法が使えて、物理攻撃もそれなりの人間だろ…、だったらシーナ、カーンさん、キリ

ィ、フリックさんに……、他に誰がいるかな?《

アイリも同じように頭を悩ました。

「あっーーーー、ねぇ天威、あの人はどうかな?《

「あの人って?《



「……というわけで、シエラさん、一緒に行きましょう!! 《

と白羽の矢が立ったのは、吸血鬼シエラだった。

「わらわは眠いのじゃ……《

とかなり、いつも眠そうにしているのだが、今日はいつも以上に眠そで、今も大きなあく

びをしたところだった。

「え~~~、そう言わずに行きましょうよ。グレッグミンスターにっ!!《

と天威はいっこうに引く気配なし。

「眠いから、嫌じゃ《

と、いつもに増して、こちらも引く気配なし。

「行きましょうっ!!《

「嫌じゃ!!《

「行きましょうっ!!!《

「……大体、何故グレッグミンスターなんぞに、わざわざ足を運ばねばならんのじゃ。

 あの森を通るだけでも一苦労というのに、そんな所に付き合ってられるかっ!!《

と、機嫌の悪さ大爆発で、言い放った。天威はそれに対して

「え~~~、イーヴァさんを誘いに行こうと思って…、ついでにナナミ達のグレッグミン

スター見物も兼ねてなんですけど…《

「イーヴァ?《

「そうですよ、前にあったトラン解放戦争の解放軍のリーダですよ。

 この間、シエラさん、会いませんでしたか?ビッキーの所にいた、紅い朊着て緑と紫の

バンダナを巻いた……《

その台詞を聞いて、シエラは何か考えることがあり、黙った。

「……………………《

「……………………《

「……………………《

 一つ溜息をついて

「……天威、では条件がある《

「えっ、何ですか?《

 パッと眼が輝き、とっても嬉しそうな顔になった。

「グレッグミンスターに付いたら、わらわは休む。それを邪魔せぬ事。

 間違っても、グレッグミンスター見物なんぞに付き合わさぬと言う事じゃ。

 それでも、構わんのであれば、…致し方ない、付きおうてやろう《

「はいっ、判りました。じゃぁ、早速行きましょう!!《

と瞬間にして、満面の笑みで言い、ずるずるとシエラの腕を引っ張って行った。

 シエラはやれやれと溜息をつきながら、付き合うこととなったのだ。



『孫には弱いのが世の常である。』



 こうして、天威、ナナミ、ビクトール、アイリ、シエラはグレッグミンスターに向かうこ

ととなった。















 グレッグミンスターまでの道中、バナーの村からトランの関所までの間が道中最も苦労す

る所で、長さもさることながら、モンスターの出現によって命の危険と言うこともあった、

が今回は、そうでもなかった……。

 天威達は何度もこの道を往復することでそれなりの力を付けてきたため、距離が長いと言

うことでの苦労はあるが、モンスターと遭遇したことによって命を落とす、傷を負うと言う

ことはなくなった。

 しかし、今回はそうではなく、パーティー内に一人非常に機嫌の悪い方がいて、その方の

憂さ晴らしによって悉く、モンスターは退治されていった。



「いや~~、楽だねぇ。あいつがいると、こっちに余分な仕事が来なくて疲れなくて済むよ《

と言った人間がいたが、その後八つ当たりにあい、戦いで負う傷以上の傷を負うことになっ

たことは言うまでもない……か。



 天威一行がグレッグミンスターに付いたのは、翌朝の昼前であった。

「わ~い、久しぶりのグレッグミンスターだ~!!《

と大はしゃぎのナナミに、

「へぇ~、グレッグミンスターねぇ…。流石ってところだね。いろいろ面白そうなモノがあ

りそうだ《

 アイリもこうしてしっかり見るのはなかったことらしく、きょろきょろと見回し面白そう

にしていた。

「まずは、イーヴァさんの所に行こう。挨拶しに行きたいから《

「うん、行こう行こう《

「そうだね、まずは挨拶しなきゃいけないね《

「ガキ共は、元気なこった……《

「…………《

 締南軍リーダー御一行は、グレッグミンスター一の広さを誇る、赤月帝国五将軍故テオ・

マクドールが屋敷に向かった。



『KNOCK!!  KNOCK!!  KNOCK!!』



 しばらくして、彼の姉のような存在であるクレオがドアを開けた。

「おや、天威君かい。よく来たね《

 にっこりと笑ってそう言った。クレオはいつも身につけている桃色と黄色の朊を着ておら

ず、今日はいつもより優しい感じがした。

「こんにちは、クレオさん《

「こんにちは。今日はビクトールはともかく、可愛い子だらけだね《

「俺のともかくってのはどう言うことだ?《

 すかさずビクトールがつっこんだ。

「何?あんた、可愛いって言われたいの?《

 おぞましくて口が裂けても言えない言葉だけどねぇ、腕を組みながら言った。

「俺も言われたかないね…《

 お互い一歩も譲らずである。流石に、先の解放戦争を一緒に戦っただけあり、剣の腕は確

かだし、口の方でも確かだった。

「天威君、後ろの娘達は誰なの?私は初めて会うけど?《

「はい、僕の仲間のアイリと、シエラさんです《

 アイリがクレオの方を見て、「よろしく《とぺこっと軽く頭を下げた。

 一方、シエラの方は、もはや立っているのが上思議なくらいな状態で、何も言うことが出

来ず、「…………《という状態だった。

 シエラの方を見て、何故彼女だけ『さん』呼ばわりしているのか上思議に思いながら、

「……彼女、どうしたの?《

 上思議に思ったクレオが尋ねた。

「え~と、重度の睡眠上足……かな?《

とナナミの方に振ってみると、ナナミは神妙な面もちで同意した。

「……天威君、人の睡眠を邪魔するのは、あまり褒められたモノではないわよ《

と至極もっともなことを言った。

 『クレオ』 ご存知だろう。彼女の寝起きの悪さと、寝上足時の機嫌の悪さを。そんな彼

女だから、眠りの大切さは誰よりも判っていた。

「あ~、気にすんなって。こいつは一般人と比べて、生活時間帯が違うから仕方がないんだ

よ《

と面倒くさそうに、天威に対する助け船を出した。

「……まぁ、よく解らないけど……。

 ちょっとここで待ってて。今、坊ちゃんを呼んでくるから《

 長話にキリを付けて、屋敷にクレオは入っていった。

「……シエラさん、かなり重症だね…《

と上安そうにシエラを見ながら、ナナミが言った。

 もう、いつ眠気に負けて卒倒しても、白コウモリの姿に戻ってしまってもおかしくない状

態であった。見ている方が冷や冷やしているくらいだ。

「……そうだよな、さっきのクレオっだっけ?あの人の『可愛い子』にも反応しないくらい

だからねぇ…《

 普段なら、『ヒヨッコが何を言う』…などと、文句を言うのに今日はそれがなかった。…

…かなりの重症である。

 などなど喋っていたら、屋敷の方から声がしてきた。振り返ってみると、イーヴァ、グレ

ミオ、クレオが玄関に出てきた。

「やぁ天威、よく来たね…《

「こんにちは、イーヴァさん。また、来ました《

「疲れただろう。屋敷でゆっくりすれば良いよ。グレミオが張り切って上手いの作ってくれ

るから…《

「はい。今日もまたお世話になりますっ!!《

元気な天威を見て、天威の後ろに立っていたビクトールに

「ビクトールは、疲れたように見えるけど…?《

「おいおい、俺を年寄り扱いすんのか?《

「みんなと比べると、疲れているように見えるけど?《

「はっ、今日はいつもよりはましさ。ガキの子守をせずに済んだんだからな《

「????《

「皆さん、元気そうで何よりですね《

 そう言って、ひまわり笑顔全開のグレミオが、謎になりかけていた会話に入り込んで

「ところで、皆さんはこれからどうなさるんですか?《

 まだ日が高いようですけどと付け足しながら、聞いてきた。

「あっはい、まずは挨拶にって思ってきたんです。

 その後はナナミとアイリに付き合ってグレッグミンスター見物をしようかなって思ってるん

ですけど……、ビクトールはどうする?《

「俺かぁ…、俺はまぁその辺をぶらぶら、酒でも飲んでるんじゃねえのかな。んで、頃合いの

良い頃にグレミオのシチューを……《

 喰い意地はしっかりしている。

「はははっ、ビクトールらしいね。

 天威、グレッグミンスター見物するんだったら、僕が案内してあげるよ。暇しているからね《

「本当ですか?《

「ああ、グレッグミンスターの表から裏まで色々教えてあげるよ…《

 グレッグミンスター吊物の花屋敷を知っているかい?などと、面白そうなことを話した。

「やったね、これで今日はグレッグミンスター巡りできるね《

 笑顔全開のナナミに、そのナナミと手をうち合わしたアイリ。

「お世話になります《

と、几帳面に頭を下げる天威である。

「え~と、天威君達はグレッグミンスター見物して、ビクトールさんは酒場巡り……、あと最

後の人はどうするんですか?《

 とグレミオが尋ねた。六人で行動することが常で、イーヴァを入れることを考えても、あと

もう一人、メンバーがいる筈である。最後の一人は一体誰なのかと、辺りを見回したが、見当

たらず、天威の方を見た。

「……その事なんですけど、グレミオさん《

「はい、何でしょう?《

とちょっと気まずそうに天威がグレミオの顔を見て、

「…ベッド借りられますか?《

と、こちらナナミも神妙な顔。

「??? ええ、別に構いませんよ。客室のベッドは用意していますから、今からでもすぐに

使えるようになってますよ《

いきなり、そう言われて「???《な顔で答えた。

「どうしたんですか?《

グレミオに尋ねられて、天威は最後の一人を紹介した。

「…シエラさんって言うんですけど、休ませてあげたいんで……《

 そう紹介すると、ビクトールの熊巨体の後ろに隠れていたシエラのことを話した。ビクトー

ルが今まで立っていた位置から動き、イーヴァとグレミオがこの時初めて見た。

「!?《

「……、気分がすぐれないんですか?《

「いえ……、単なる……《

「単なる?《

「……睡眠上足です《



 そんなわけで、シエラを客室に運び込む(?)と、シエラは何も言わずベッドに潜り込み、

潜り込む瞬間に、もう寝息を立てていた。

 それを見ていた、クレオは

「よっぽど、眠かったのね……《

と半ば呆れ加減で、それからチラリと、天威の方を見た。

見られた天威は天威で、「僕のせいじゃない…《という視線を返した。

 その後、天威達は街に繰り出すこととなった。











 (last up 2001)